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じゃじゃ馬グルーミン☆UP!のSSおきば。
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熱い夜・2 ~ちょっとお出かけ~


頭が、ボーっとしてた。


足が、地面についていない感じ。


なんだろう……なんだか、あたし変―――。




「おはよう、ひびきさん」


後ろから、誰かの声。


「おはよう……? ひびきさん?」


―――誰だっけ? 聞こえているのに、聞こえていない感じ。


なんか、だるいな……。


「どうしたんや、おーい、ひびきちゃ―ん」


「―――っ!!」


独特の語り調(というより方言か)で、あたしはビクッとなった。慌てて後ろを振り返ってみると、そこには駿平と梅ちゃんの二人。


―――なんだ……。


何故かホッとするあたし。――っていうか、だるさが、抜けない。


「? おはよう、ひびきさん」


「あ。……おはよう」


「ひびきちゃんらしゅうないなー、ボケ~っとしとるなんて。ははぁ、さては」


梅ちゃんが不気味ににやりと笑う。「さては、なんですか?」駿平が梅ちゃんに、きょとんと尋ねた。あたしは別にそんなのに興味はなかったから、とりあえず聞かなかったことにして、また歩き出した。


するとすぐ後ろから「冗談やがな~」とか言ってる梅ちゃんの声が響く。「冗談ですみませんよ!」金切り声の駿平、「はっはっは、朝から元気だね」「ナニヤッテルデスカー」「まただよ」途端に、騒がしくなっていく。けど、あたしは振り返らなかった。


酷く眠い。―――それに、なんだか体が重い。


おねえちゃんのコーヒーはほんとに凄い効き目だった。それは、良かったんだけど、コーヒーの効き目が丁度これから仕事に出ようか、って時にぷっつりと切れてしまった。


 もともと中途半端にしか眠ってないから、効き目が切れた途端の襲ってくる眠気は凄かった。


でも眠気だけなら、まだ我慢もできるんだけど、なんだか体の調子がおかしくて、あたしは気が重かった。やっぱり、寝不足のせい?


それになんだか、熱っぽいし……。風邪でも引いたのかな……?


そんなわけで、あたしは梅ちゃんのいつもの講釈なんて聞いてる気にはなれなかった。


「ひびきさん、聞いてよ。梅さんたらさぁ……って、どうしたの?」


駿平があたしのところへ駆け寄ってきて、あたしの顔を覗き込んだ。


「!」


あたしは思わず目をそらしてしまう。


「ひびきさん? どうしたのさ」


ちょっと心配そうに駿平はこっちを見てくる。「――~~~…」でもあたしは今日の朝早く見た夢のせいで、どうもまともに駿平の顔を見れない。「え? なんか変に見える?」夢の中での駿平と、今の駿平とがダブって見えてしまう。


でもそんな事、こいつに言えるわけないし。


「そういうわけじゃないけど」


「ごめんね。夢見悪くてさ。睡眠不足なんだわ。おねえちゃんにコーヒーもう一杯作ってもらえばよかった」


「夢見。―――どんな夢だったの?」


何気なく言ったあたしの言葉に、駿平が聞いてくる。しまった! と、言った後ではもう遅かった。


睡眠不足で、頭までボケちゃった?


「ひびき……さん?」


硬直してしまったあたしに、怪訝な顔でこちらを見る駿平。「……」あたしは途端に何もいえなくなる。だって、あんな夢のこと、言えるわけないし……いったらどう思われるか。


まるで……あたしが……あんたを誘ってるみたいじゃないべさ!


「夢見が悪かったんだから、悪い夢なんだべ!」


「怒ることないだろー? 機嫌悪いね。……ねぇ、仕事始まる前に、言っちゃうけどさ。今ならまだいいよね?」


「なんだべ?」


「今日の夜、ひびきさん、暇?」


「え……?」


あたしの胸が、素直にドキリ、と鳴った。



「ひびきさん、明日休みでしょ。オレも実は、休みになったんだ。ケンさんがオレの休みの日になんか用が出来たとかで、変わってあげたからさ」


つまり、デートの誘い? どこかホッとしながら、「ふぅん」とあたしは言った。


「じゃあ、明日会えばいいべ。なして今日の夜なのさ?」


「えっ……、それは」


途端に口ごもる駿平。「えーと。たまにはひびきさんと飲みにでも行きたいな、と思ったわけでありまして」


「ふーん。それはいいけどさ。でも、飲みに行くとなったら車使うっしょ? あんた、どうやって帰ってくる気なのさ。まさかあんた、飲酒運転する気じゃ……」


「はあ、それは、その通りなんですけど」


「思いつきで物言うんじゃないわ。仕事もうすぐ始まるから、行くよ」


―――何バカなこといってんだろう、あたしは無視してそのまま通り過ぎようとした。と、その時。「!」直感ではあるんだけど、駿平が何を言いたいのか、気づいた。


「あんた、もしかして―――」


あたしの言葉に、駿平は気まずそうに頭を掻きながら、頷いた。「実は…さ。もうホテルなんかも予約を取ってありまして……」


―――はぁ!? ホテル!?


予想もしてなかったその言葉に、あたしは思い切り駿平を睨みつける。


「な……なして、そんな勝手なことするのさ!?」


えへへー、と駿平はとっても情けなく笑う。


「驚かせたくって。ほんとに思いつきなんだけど……でも、どうしてもダメなら、諦めるから」


駿平はあたしの言動を少しは予想してたみたいで、あたしが声を荒げても大して驚きはしなかった。えへらえへらと苦笑いを浮かべてるだけ。「……っ!」それが尚更癪に触るってことに、全っ然気づいてない。


「―――バカ! 何であんた、いつも勝手なのさ。驚かせるにしたって、方法があるべ?」


いつものことなんだけど、どうしてこいつはあたしに何も言わずに事を進めようとするかな? 一言ぐらい、そんなこと言ってくれたって……いいじゃないべさ。


「信じられないべ」


むかむかしながらあたしは駿平から顔をそむけた。


「……ごめん、勝手なことして」


駿平はそんなあたしの態度に、しゅんとうなだれてしまった。知らない! と、はねつけようとも思ったけど。


あたしはもう一度駿平を見つめる。情けない男。あたしにこれくらい言われたからって、すぐに落ち込んじゃって。


夢の中でのあんたは、もう少し格好良かったのに。


「―――頭にきたけど。でも……行かなきゃ」


「え?」


駿平が顔を上げる。


「だって、行かなきゃ勿体ないでしょ! 予約したって言ったべ? そういうのって……キャンセル料とかも、あるんでしょ?」


「え、あ、うん」


「金の無駄遣いじゃないのさ、キャンセルなんかしたら! ―――父さんと母さんには、上手く言うから!」


語気荒くあたしが返すと、駿平は心の底から嬉しそうな顔をしてみせた。もう一言、何か言ってやろうかと思ってたのに、そんな顔されたら何も言い返せなくなる。


「……ん、じゃまた後でね!」


梅ちゃんに用でもあるのか、駿平はまだ騒いでる梅ちゃん達の元へと走っていった。


何かわーわー言い合ってる駿平を見ながら、あたしは思わず唇をかんだ。


判ってる。―――駿平の言いたいこと。それくらい、―――それにOKを出せば、どうなるかってことも。


「………」


あたしはまだ―――正直言って、駿平とそうなることより、キスのほうがよっぽどいい。なんでかなんて判らないけど、まだあたしはそういう意味では子供なのかも。まだ、駿平と……ただ、抱き合ってるほうが、好きで。


けど。でも、駿平がわざわざホテルの予約までしてくれて、嬉しくない―――って言うのも、きっとウソだ。


勝手に事を運ばれたのには頭にきたけど、でも、それもあたしを驚かせるため(駿平の言い分を信じれば)だし……。


駿平があたしを―――。考えただけでまた全身立ちそうになるけど、でも、それなら、いつも拒否してるわけには……、行かないよね。あたしは、そう自分に言い聞かせた。


だってそれは、駿平があたしを好きでいてくれるからだもの。あたしもその気持ちに……応えなきゃ。


「おはよーっ、ひびきさーん!」


後ろから、ぽんっと背中を叩かれた。「あ、みっちゃん」


「また梅さんやられてるね、みんなに。いつもいつもああなのに、反省しないよねー。……ん? どーしたの?」


みっちゃんまで、あたしの顔見て不思議そうな顔してる。「どーしたのって?」


「なんかひびきさん、嬉しいのか困ってるのか判んないような顔してるよ。何か遭ったの?」


嬉しいのか困ってるのか判らない顔? それってどんな顔なんだろう……ま、複雑なのは当たってるけど。


「ははぁ、さては駿平くんとの事ね」


あたしにビッと人差し指をつきたて、にやりとさっきの梅ちゃんよりは、可愛くみっちゃんは笑って見せる。


「えっ!?」


あたしは思わず声をあげてしまう。


「やっぱり。駿平くんとのこととなると、ひびきさん素直に女のコしてるものね。恋は偉大だ! なーんてね?」


「みっちゃん」


みっちゃんはにこっと笑ってみせる。同じ、男のひとに恋してるその瞳。


でも、その瞳はあたしよりずっと、余裕があって、とってもきれいに見えた。


「実際、ひびきさん綺麗になったよ。あっ、もともと綺麗だけどね。うん。だけど、そのー、なんていうのかな、そう。駿平くんの前だと、思うわけよ。あーっ、ひびきさんも女なんだなーって。羨ましいのよ、これでも」


「女……?」


こんなあたしが?


「そう! 女のコはやっぱり、誰がなんと言っても恋をしてる時が一番可愛いよね。うふふ、あたしもこの頃そう思うようになったの。
―――おっと、そろそろ行かなくちゃね」


まるで、さっきのおねえちゃんの言葉の続きのような、みっちゃんの言葉。


なんだかむずがゆくて……照れくさかった。けど、なんか、その言葉を、素直にそれを受け入れられる自分も、いて。


「今日も仕事、頑張ろっ♪」


「……うん!」






―――仕事が終わって、あたしは急いで家に帰った。


父さんと母さんに上手く言うから! なんて、駿平には言ったけど。でもどうやって説明して家を出ようか、なんて考えながら。だって後でひづめにからかわれるのも面倒だし、もうふっきってくれたとはいえ、たづなにだってどう言えば……。


「あら、ひびきちゃん? お帰りなさーい」


居間に入ると、台所からおねえちゃんの声がした。たづなもひづめもまだいない。まだ学校から帰ってきてないのかな。父さんと母さんは、多分事務所にいるんだろう。


「あ、うん。ただいま」


「今日ね、後2時間ほどでおねえちゃん、父さんたちと一緒に出かけなきゃいけないの。だから悪いけど、今日はカレーで許してね」


おねえちゃんは後姿のまま、あたしに言う。言われるまでもなく、既に居間にはカレーの匂いが漂っていた。別にカレーは好きだから、いいんだけど。


「おねえちゃん、どっかいくの?」


「うん。ちょっと……ね。遅くならないように、するけど」


「あ、あのさ。あたしも今日はちょっと……」


「あら、ひびきちゃんもどっか出かけるの? あ、この時間だったらもしかして、駿平くんとご飯?」


おねえちゃんはこちらを振り返って、「良かったわねー」と嬉しそうに笑ってくれた。でもあたしは、それだけじゃなくて……。


なかなか次の言葉を言い出せないあたしに、「どうしたのひびきちゃん。顔、真っ赤よ」おねえちゃんはガスの火を止め、あたしの近くに来る。


「……」


言い出す言葉が、何処を探しても見つからない。そうしているうちに、あたしはパニくってしまっていた。思わず、おねえちゃんの顔をじっと見る。「―――」おねえちゃんはそのあたしの視線を、静かに受け止めてくれた。


「――ああ、そうなの。そういうことなのね?」


言ったのは、その一言だけ。


「いえないんでしょ。ひびきちゃんのことだから。―――すぐに出かけなきゃ、いけないの?」


「……うん」


あたしが頷くと、おねえちゃんはちょっとだけ困った顔をして、「んー、そうねー」と考える素振りをしてみせる。


「しょうがないな。ここはおねえちゃんに任せときなさい。母さんにそれとなしにいっといてあげるわ。シャワーくらい浴びてく時間はあるんでしょう? 女のコだもん、綺麗にしていかなきゃね」


おねえちゃんの言葉に、あたしは目頭が熱くなりそうだった。そのせいで引きつく口元で、あたしは精一杯、思いを口にする。


「……、―――ありがと、おねえちゃん」


でも、それ以上はいえなかった。


「いいのいいの。可愛い妹のためですもの。さ、早くシャワー浴びて、用意してらっしゃい」


おねえちゃんの優しさに、あたしは何度も何度も、心の中で「ありがと」と繰り返していた。






「ひびきさーん」


駐車場の前まで行くと、駿平が先に待っていた。「軽トラでごめんね」と駿平は相変わらずの愛想笑い。


多分、あたしがどんな思いでここまできたんだか、きっとこいつには何もわかってないんだろーなー、とあたしは思った。まあ、そんなことどうだっていいんだけど。


「こっちこそ、待たせてごめん。ちょっと用意に時間がかかってさ」


「……ん? もしかしてひびきさん、化粧してる?」


もう外も暗いのに、駿平はすぐにそのことに気づいた。シャワーを浴びる前に、おねえちゃんに言われたんだ。「たまには、してみたらどう?」と、それだけ。


別に、駿平にそう見られたくて、とか、ましてあんな夢をみたからとか、そういう理由なんかじゃないんだからね。


「うん」


あたしが小さく言うと、駿平は嬉しそうに笑った。


「嬉しいな。ひびきさんがオレのために、化粧してくれるなんて」


「別に、あんたのためじゃ……」


「だって、そうじゃないの? これから二人で出かけるのに」


「たまたま、してみよーかな―なんて思っただけさ。いい気になんてならないでよ」


駿平は「はいはい」とやっぱり嬉しそうに言う。……なんか、ムカつく。そんなあたしに、駿平はきょろきょろっとあたりを軽く見渡し、あたしにさっと顔を近づけた。


「!」


キス。


「ん…やだ、ちょっと、駿平……」


唇が離れると、駿平はにっと笑った。―――いつの間に、こんなことが出来るような奴になったんだろう?


「綺麗だよ、ひびきさん」


駿平は軽トラの助手席側のドアを開け、「さぁどうぞ」。あたしが車に乗り込むと、駿平も運転席に乗った。


「じゃ、いこっか!」    


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性別:
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自己紹介:
寝るのと食うのが最大の楽しみなダメ主婦。動かないせいか最近寝れない。ヤバス。

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