２つの日記
｢書けたか？」
―――古い日記を、この前見つけた。
なんかの拍子に紛れ込んでた、昔の自分が、
「ハイ、できた！ おとうさん、読んで｣
そこにいた。
『６月６日 「たんじょうび｣
きょうはぼくは４さいになりました。』
今日は響平の誕生日で。
みんな揃って祝ってくれた｡
『おとうさんとおかあさんがおいわいしてくれました。
たづなおねーちゃんがけーきをつくってくれました。
ひづめおねーちゃんはおこづかいをくれました。』
あいつももう４歳｡
まだまだ手はかかるけど日に日に大きくなっていく姿はなんかやっぱり嬉しい…｡
『おばあちゃんとおじいちゃんもぷれぜんとをくれました。
あぶみおねーちゃんからははがきがとどきました。
ユウおじちゃんからはすとらいくいーぐるとかいうウマのカードがきました。』
―――オレのときとは大違いだ｡
『みんなでたのしかったです。』
オレは小さいときから、どれだけあんなふうに家族で楽しく、
何も考えずに楽しくやっていれたかな、なんて。
｢駿平…？ あ、まだいないんだ｣
そんなヒネたことを考えてしまったりして。
「…？ これなんだろ」
でも今になってすれば、判らなくもない｡
きっと親父もオレや母さんの為に頑張ってくれてた、ってことは｡
「日記…？｣
オレも同じ立場に立って、
偉そうなことはまだまだいえないけど｡
でも、きっと同じ目で今、頑張ってるとはいえるつもりなんだ｡
｢へぇ～～。あいつってちっちゃいころから几帳面だったんだぁ｣
ひびきもオレについてきてくれてる。
大学とここと、２つの生活を掛け持ちで生きていくのは、結構きつい訳だけど。
｢書いてる書いてる。あ、誕生日見つけた｣
でもそれでも頑張っていこうと思えるんだ。
オレはここで生きていこうと決めたから。
「………。｣
響平にも今、日記を書かせている。
覚えたてのひらがなで、頑張って書いている。
今日も、嬉しいことを書いてくれた。
｢あいつ…。」
こういうの見ると、もっと頑張んなきゃな、って自然に思える。
オレもいよいよあれなのかな。
北海道に来るまでは、この年でこんなことを思うなんて、考えてもいなかったのに。
『×がつ×にち 「きょうはぼくのおたんじょうび｣』
さぁて、お休みはここまで。
明日からまた、頑張ろう。
昔みたいに流されずに、自分の足で。
『きょうは ぼくのおたんじょうびでした
おかあさんが ケーキをかってくれました』
響平はもう寝たんだろうか？
ひびきが寝かしつけてくれたのか。
『おとうさんは いませんでした かいしゃだそうです
きょうも ぼくとおかあさんで ふたりでした 』
渡会のこの家も、今では本当に自分の家のように思える。
この家では、いつも誰かしら居る。
騒がしいけど、でも、それがいい。
『おとうさんは ぷれぜんとをかってくれました ぷらもでるでした
でもぼくは あんまりうれしくありませんでした 』
一人は、嫌いなんだ。
淋しく誰かの帰りを待ってるなんて、もう嫌なんだ。
『ぼくは おとうさんと ケーキをたべたかったです。』
これからも頑張ってくし、頑張っていけるんだ。
いつかの親父みたいに。
「あれ…？ ひびきさん？」
頼りにしてくれる人がいるから。
「駿平…｣
親父が会社から帰ってこないのを憎らしくも思ったときがあったけど。
でもその思いを今ならきっと判るんだ。
｢……｣
きっと今、親父の気持ちがわかるから。
古い日記を、見つけた。
昔の自分と、今の自分が、やっと出会えたような。
もう開くこともない―――ふるい…古い日記。